プロジェクトG4

2020年、コロナ禍により19年続いた仮面ライダースーパー戦隊の夏の劇場版の公開が中止となりました。

長らくこの2大ヒーローの新作劇場映画が夏に公開されるのは、定番となっており、仮面ライダーシリーズの放送開始が9~10月となった現在では、1年間の集大成という位置づけにもなっていました。

そんな、ライダー・戦隊の劇場版が始まったのが2001年、当時放送されていた仮面ライダーアギト百獣戦隊ガオレンジャーの劇場版を9月に放映したのが始まりでした。当初の劇場版は9月公開の物も多く、8月に基本固定されたのは、2006年の仮面ライダーカブト轟轟戦隊ボウケンジャーからでした。

ちなみに、当初は、アギト・ガオレンジャーの同時上映の予定ではなく、前年に放送された、仮面ライダークウガの新作映画の同時上映にアギトの劇場用新作を制作するという流れが、現行作品の劇場化に転じたものであり、これが実現していれば、平成ライダーの映画化もTVシリーズの続編が定番になっていたかもしれませんし、なにより戦隊シリーズの映画化が定番化しなかった可能性があるので史実とは全く異なるものになっていたと考えられます。

前置きが長くなりましたが、今日は、平成仮面ライダー劇場版第1作「劇場版 仮面ライダーアギト プロジェクトG4」を東映特撮YouTubeで視聴したので感想を書きたいと思います。

物語のあらすじは、超越生命体アンノウンに襲撃された超能力研究所からたった2人生き残った少女紗綾香と少年レイ。行く当てもない路頭を彷徨う彼女達と出会った津上翔一、芦原涼。交流を深めてていく両者の前にアンノウンの魔の手が迫る。

同じ頃、G3ユニットに自衛隊からの研修生、深海理沙が加入する。しかし、彼女の目的は、小沢澄子が封印した禁断の兵器G4システムの情報を盗み出すことであった。

予知能力者を狙うアンノウン・アントロードの大群と対峙するアギト・G3-Xの前に現れたのは、澄子の設計図を基に自衛隊が開発したG4だった。

G4のさらなる強化のため予知能力を持つ紗綾香を付け狙う理沙、しかし、助けに入る風谷真魚が強力な予知能力を持つことを知ると彼女を研究所へと連れ去ってしまう。

予知能力を持ち無敵となったG4をアギト・G3-X・ギルスは打ち破ることはできるのか……

というお話です。

このお話のテーマは、戦士の生死観ではないかと考えます。アントロードに命を懸けて立ち向かうことが出来なかった弱さを悔い、力を手に入れるためG4を装着する水城史郎。G4を装着して死んだ者たちの亡骸を見せ死を背負って戦う覚悟があるか、とG3-Xを装着する氷川誠に問いかけるシーンにその壮絶な覚悟が表されています。

それに対し悩む誠。そんな彼の悩みに対し、生きていることは、おいしいっていうこと、死を意識して生きるよりも生を実感しながら生きたほうがいい。というような考え方を話す翔一。彼の言葉を聞いた誠が、それでも自分は生きていることを素晴らしいと思いたいと、水城に言い放つシーンも過去にとらわれず前に向かって生きること、自分の未来を自分の手で切り開かなくてはならないというアギトのテーマを表していると考えます。

水城の考えそのものは否定されてしまいますが、彼の持つ覚悟、本物だと思います。自分の弱さを自覚し、力を追い求め、アンノウンを倒すことに命をささげる姿そのものは戦士としては、立派だと思います。

しかし、その為に超能力者が道具の様に扱われる様を見逃したり、真魚を奪還しにきたアギトやG3-X を排除しようとするさまは、まさに狂戦士。国と人命を守る自衛官の責務から逸脱しており、手段と目的がいつの間にか入れ替わってしまったのかなと感じました。

それでも、G4のカッコよさは代えがたいものが在ります。黒いボディに青い目、武器も自動小銃GM-01改と四連ミサイル「ギガント」のみとパワープレイが得意で破壊力抜群とまさに冷たい人間兵器といった仕様になっていてまさにロマンの塊といった感じです。ヘリコプターから飛び降りるという登場シーンも印象的です。

それに対して、邪悪そのものなのが、深海理沙です。紗綾香達、孤児の超能力者たちを実験動物か何かの様な扱いをする彼女は、澄子の様な確固たる信念も正義感も理性も持ち合わせていない人物で、他人が設計したG4を自分の物の様に魔改造していく姿は、盗人猛々しいという言葉がふさわしく、腹立たしさを覚えました。

そんな彼女の最期が、アントロードの大群に襲われるという悲惨なものであるとともに、アンノウンに襲われるということは、自分自身が散々見下していた超能力者である可能性があるという意味でも悲惨で哀れな存在思います。

そんな平成ライダーでもTOPクラスの悪女である理沙を演じたのが、後に悪女女優として人気を博す、小沢真珠さんだというのも何ともニクイなと思いました。

 

ここまで悪役のことばかり書いてきましたが、ヒーロー側もかっこいいシーンが盛りだくさんです。

翔一・アギトは、暗闇を照らすシャイニングライダーキック。涼・ギルスは、レイ少年との交流、そしてエクシードギルスへの変身。仮面ライダーが腕をちぎられるシーンは、何度見ても衝撃です。

そして、誠・G3-X は、なんといっても最終決戦です。兵器としてのスペックでは、G4に打ち勝つことはできない。だから氷川誠として戦いなさい。という澄子のセリフは、何度聞いても痺れます。そして、人間としての生を冒涜するようなG4の自動行動機能、装着者の死後も自動で動き続ける様に対し、人間、氷川誠の心からの叫び

もういいだろ!

この名台詞がアドリブだっていうんですから、恐ろしいですよ要潤という俳優は……

最後は、ウルフルズの事件だっ!で占めるんですがこの曲、彼女とのデートに遅れたのが事件だっ!って曲なんですよね。なんでこの曲が主題歌なんでしょうか、歴代映画主題歌の中でも変わり種ですよね。

というわけで、劇場版 仮面ライダーアギトの感想でした。子供のころから何度も見ている作品で見るたびにワクワクしてジーンとくる作品なんですけどこの作品の完成度の高さがのちの平成ライダーシリーズの劇場版の定番化につながったことは間違いないです。残念ながら去年連続上映が途切れてしまいましたが、今年は、セイバー・ゼンカイジャースーパーヒーロー戦記という新しい形で夏映画が復活しました。今後は、元の流れに戻るのか、新しい流れが定着するのか、それとも全く別の展開が待っているのか今から興味が尽きません。

これからも生きることが素晴らしいと思えるような作品が生まれることを願って……